多彩なエフェクト「Reverb」(リバーブ)とは

多彩なエフェクト「Reverb」(リバーブ)とは

リバーブの種類、パラメーターとその使用方法

「Reverb」(リバーブ)とは何でしょうか?実はリバーブは、私たちの日常生活の中に常に存在しているものです。音が様々な物体の表面(硬いもの、柔らかいもの、高いもの、低いものまで様々)に反射する自然現象の事です。

この世のあらゆる「音」は空気を通じて耳に届くため、空気感を感じさせない音はとても不自然で薄っぺらく、ある意味で嘘っぽく聞こえてしまうものです。

ところがスタジオレコーディングの現場ではむしろ、特殊な技術やツールを活用して出来る限り空間の音響特性を排除したドライな音を取り出そうとします。

より良いミックスバランスを作り、より良いマスタリングを可能にするために、まずはクリーンな音から始める必要があるからです。

空間で反射した音を聞くことに慣れている私たちにとって、楽曲の中にも「反響する空間」は必要なのではないでしょうか?

答えはYes。トラックが整理され、音量バランスも整い、ミックスがある程度組みあがったなら、次は「反響する空間」を加えていきましょう。Reverb(リバーブ)の出番です。

なぜリバーブが必要なのか?

優れたミックスエンジニアになるにはリバーブについてしっかり理解する事が重要です。

リバーブはミキシングにおいて単に実用的なツールというだけでなく、クリエイティブツールとしても使える多彩なエフェクトです。目に見えない深みや厚みを通じて、リスナーを楽曲の世界に誘う事ができるでしょう。

リバーブが持つ目に見えない深みや厚みを通じて、リスナーを楽曲の世界に誘う事ができるでしょう。

リバーブは奥が深く、学ぶべき事が沢山あります。最高のミックスに仕上げるためにも、このパワフルなエフェクトツールの使いこなし方をご紹介しましょう。

Reverb(リバーブ)とは?

“Reverb”(リバーブ)は、鳴ったオリジナル音に対する反射音を生成するエフェクターです。

リバーブは何をもたらしてくれるのか?

リバーブは大変面白く、膨大な計算により生成されるのですが、その詳細については今回は割愛します。

それよりも大事なのは、リバーブがあなたに何をもたらしてくれるのか、なのです。

リバーブは広がりや深さと言った印象を楽曲に与えるだけでなく、その音がどのような場所で鳴っていて、リスナーは今どこに立っているのか、といったような手がかりをも与えてくれます。リバーブはリスナーをコンサートホールから、洞窟、あるいは教会など、様々な空間へ瞬間移動させてくれるのです。

さらに自然なハーモニクスが加わる事で、楽曲がより一層輝き、暖かさや空間の広がりを際立たせる事もできます。

リバーブのないループ素材(Dry):

同じループにリバーブを追加(Wet):

 

Wetタイプのループ素材の方が、Dryに比べて良い質感をもたらしているのがわかるでしょう。シンセラインはより自然に聞こえますし、楽曲全体にリッチな印象を与えます。これがリバーブなのです。

近年、私たちはコンピューター上のVSTプラグイン等といったデジタルオーディオエフェクトを使って音を加工しています。そんな中で、クラシックなアナログリバーブの美しさは、未だに理想とされているのです。アナログとデジタル、両方のテクニックを学ぶ事は、不可欠と言えるでしょう。

タイプ別の特徴

一般的なリバーブタイプ例を示します。先程と同じコンガを使って、どのようにリバーブが作用しているか聞いてみましょう。

オリジナルのコンガサンプル(Dry):

それでは、それぞれ異なるリバーブタイプを比べてみましょう。

Hall Reverb:

「Hall Reverb」はコンサートホールなどの大きな反響スペースの音響特性をシミュレートします。古くから使われてきたリバーブです。クラシックやポップスなど伝統的な音楽ジャンルに適しています。

ミックス全体や、複数の楽器・トラックをまとめるバスチャンネルに使いましょう。

Chamber Reverb:

反響室などのアナログリバーブ用の物理空間を表現。

楽曲全体の周波数レンジをとても自然にまとめてくれます。小さなアンサンブルやクラシック音楽、ポップスなどに適していますが、他のシチュエーションでもうまく作用する事があるので自分なりに色々と実験をしてみてください。

自分の耳を信じて試してみよう。

Room Reverb:

中〜大型の部屋の残響を表現し、楽曲に鮮やかさを与えます。

ソロ系の楽器、特にドラム、アコースティックギター、ピアノ、ストリングス、ボーカルといった楽器に適しています。

Room Reverbは楽曲の中から個別の楽器パートを際立たせる効果があり、どのようなジャンルでも効果的です。

Live / Stage Reverb:

演奏ステージの残響を表現。ライブ感を必要とするタイプの楽曲(クラシックロックやポップス等)に適しています。

個別の楽器パートだけでなく、全体のミックスをまとめるのにも適しています。

Church / Cathedral Reverb:

教会のような広くて天井がとても高い、石で出来た建造物の残響を表現。

クワイア(合唱団)やストリングスアンサンブル、オルガン、リード系楽器などに対し、大きく反響する空間を与えるのに適しています。

Spring Reverb:

ギターアンプでよく使われるアナログスプリングリバーブを表現。

ロック、ジャズ、ブルース、メタル等の楽曲や、エレキギター、ロックオルガンなどの楽器に適しています。様々なジャンルで使用できる一般的なリバーブの一つです。「ビョーン」というスプリング特有の金属的な音を混ぜ合わせる事で、楽曲が生き生きとしてきます。

「ビョーン」というスプリング特有の金属的な音を混ぜ合わせる事で、楽曲が生き生きとしてきます。

「ビョーン」というスプリング特有の金属的な音を混ぜ合わせる事で、楽曲が生き生きとしてきます。

Plate Reverb:

アナログのプレート残響を表現。ポップスの他、パーカッション、ブラス系、リード系、ボーカル等のパートに適しています。

スプリングリバーブと同様にジャンルにこだわらず適用できるため、様々なミックススタイルに頻繁に使用されてきました。

Gated Reverb:

ノイズゲートを使って残響成分の減衰部分を強制的にカットします。80年代のロックやポップバラードによく使用されていました。

独特なエコーで迫力があり、音にパワフルな力強さを与えます。ドラム、ベース、ギター、シンセ、ボーカルなどに使えます。

Convolution Reverb:

実際に存在する空間で録音されたデジタルファイルを使って、特定の場所の残響効果を表現。

DIYのように実際の残響を録音して自分の楽曲に適用できます。

例:我が家のバスルームでコンガを鳴らしてみた:

ここまでで主なリバーブタイプの特徴がわかって来たかと思います。ではいよいよ楽曲に使用してみましょう。リバーブを正しく使用するためには、リバーブの各種パラメーターの働きを理解する事が重要です。

リバーブパラメーターの調整方法は以下の通り。

リバーブパラメーター

リバーブを正しく使用するためには、リバーブのパラメーターを理解する事が重要です。リバーブのパラメーターは大抵の場合、つまみの形をしています。

下記は一般的なリバーブパラメーターのリストです(ここにないパラメーターについてはそれぞれの取扱説明書を参照してください)。

一般的なリバーブパラメーター:

「Type」

これは前述したリバーブの種類を指しますが、実際にはもっと様々な種類があります。

物にもよりますが、1つのリバーブエフェクター内で複数のリバーブタイプが選択できる場合に、このパラメーターを使用します。

「Size」

「Depth」や「Room Size」と呼ばれる事もあり、音を鳴らす部屋の大きさを示します。大きな部屋になればなるほど、長い残響効果が得られます。

「Decay」

「Reverb Time」とも呼ばれますが、音声信号の残響が徐々に消えて消滅するまでの減衰時間を示します。

リバーブを楽曲に正しく適用するにはパラメーターをしっかりと理解する事が重要です。

「Pre-Delay」

音が鳴ってから最初のリバーブ音までの時間、または距離。

「Early Reflections」

「Initial Reflections」や「Pre-Echoes」とも言われ、一番最初に聞こえる残響反射音の音量を指します。

このEarly Reflectionsは他のリバーブ成分とは異なる独立したものであるため、しっかりと区別しましょう。

Early Reflectionsの例:

 

「Diffusion」

「Shape」とも呼ばれ、部屋の中でのリバーブの複雑さを示します。

たくさんの反射面がある部屋であればあるほど、音が複雑に拡散していきます。Diffusionはリバーブの密度をコントロールする事で独特のエコーを生み出します。

「Mix」

「Wet/Dry」とも呼ばれ、リバーブエフェクトの適用量を示します。

リバーブを1つのチャンネルに直結する以外にも、別トラックへ立ち上げて使用する場合もあり、Mixパラメーターを使って適用量を調整します。

ミックスを輝かせるためのリバーブ

リバーブの使用に際していくつかのルールがありますが、それを守るかどうかはあなた次第。経験から言うと、できるだけ薄くかけるように心がけるとバランスが取りやすくなります。

リバーブのかかった音は贅沢に感じられるため、ついかけすぎてしまいがちになりますが、多すぎるリバーブはべったりとしたミックスとなり、特にローエンド(ベースなどの低周波数帯域)がぼやけてきてしまいます。

Hot Tip:リバーブをかけたまま録音するのは避けましょう。録音後にリバーブ成分を除去するのは非常に困難です。

録音済みデータからリバーブ成分を取り除くには、ノイズゲートのガイドを参考にしてみてください。

楽曲にぴったりなリバーブサウンドを見つける事が何より重要です:リバーブは楽曲に温かみや深さ、プロフェッショナルレベルの品質と一貫性を与えてくれます。

それではリバーブ設定の8つのステップをご紹介します。

「できるだけ薄くかける方が効果的」と常に心がけて。

リバーブ設定の8つのステップ

1:パッチサイドチェイン

個別のリターントラックを作り、そこにリバーブを立ち上げます。リバーブを追加したい元トラックの「Send」値を少しづつ大きくし、オリジナル音をリバーブトラックに送り込みましょう。

徐々にリバーブ成分が聞こえてきましたね!

2:リバーブタイプを選択

使用しているリバーブが複数のプリセットタイプを持っているなら、時間が許す限り片っ端から試してそれぞれのユニークなキャラクターをしっかりと把握しておきましょう。

自分に問いかけます。「このサウンドにはどんな空間が適しているだろう?」

全体のミックスや、個別のパート、それぞれに適したリバーブタイプを選択します。そして自分に問いかけます。「この私のサウンドにはどんな空間が適しているだろう?」「この楽曲をまとめるにはどのような響きが良いだろう?」

私はAbletonリバーブを使う時、パラメーターはいつも自分でマニュアル設定しています。コンガドラムにも、しっかりと濃厚な質感を与えます。

3:Size設定

https://blog-dev.landr.com/wp-content/uploads/2017/10/Reverb-How-To-Give-Your-Mix-Depth-inpost-1.png

Sizeパラメーター(上図参照)でリバーブ空間の大きさを変更し、音が鳴っている場所をしっかりイメージできるようにしましょう。

大きいサイズになればなるほど、長いリバーブになり、逆もまた然り。

大きいサイズになればなるほど、長いリバーブになり、逆もまた然り。

大きいサイズになればなるほど、長いリバーブになります。Sizeはステレオイメージにも適用でき、大きいルームサイズは広いステレオ空間を作り出します。このパラメーターで、長くて広い空間から、小さな狭い空間まで自在に変更可能です。

Sizeパラメーターの設定はDecayにも関係しますので、これら2つのパラメーターの動作をしっかり確認してください。

4:Decay設定

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リバーブ成分が無音になるまでの時間を決める重要なパラメーターです。

長すぎる設定は、べったりとしたミックスになりがちです。リバーブが長すぎると、音にはたくさんのループが発生・混在してしまい、長すぎる設定ではどの音がどの音なのかわからなくなってきます。

前述したように、Decayは通常Sizeと一緒に調整します。大きな部屋では長い減衰となるので、大きなSizeと長いDecay、あるいは小さなSizeと短いDecayが基本となります。

ほとんどのプリセットはこれらを自動的に調整しますが、これら2つを独立して調整する事でクールなエフェクトが作り出せるでしょう。形式的な常識は遠慮なく打ち破ってください。

Decay time値とWet値を反比例に。

Decay値が短ければ、リバーブの音量を大きくする事ができます。反射音がすぐに消えてしまい、無駄にべったり張り付く事がないからです。グランドキャニオン内での迷子のようにならないよう、長いリバーブ音の場合にはその音量を小さくすべきでしょう。

グランドキャニオン内での迷子のようにならないよう、長いリバーブ音の場合にはその音量を小さくすべき。

Hot Tip:音数の多いアレンジの場合には、各パートに短めのDecayを割り当て、歯切れよいクリアなミックスを心がけましょう。

5:Pre-delay設定

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オリジナル音の後、実際にリバーブがかかり始めるまでの遅延時間を設定します。

小さな値では遅延が少なく、直ちにリバーブ音がかかり始めるので、小さい部屋を表現しますが、その分ゴミゴミした感じになる事があります。

エコーは楽曲のリズムやテンポ、グルーヴに影響してきます。

中程度のPre-delay値は、適度な遅延を生じさせるため、大きな空間を表現した場合でも、ドライ音とリバーブ音がある程度分離されるため、べったりとした印象を避ける効果が得られます。

6:Early Reflectionsレベル設定

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Early Reflections(上図Spinセクションの黄色い丸)は普通のリバーブと比べ、エコーに近い効果を作り出します。エコーやダブリングエフェクト効果が欲しい場合、大きめに設定しましょう。

エコーは楽曲のリズムやテンポ、グルーヴに影響しますので注意しましょう。小さめの音量に留めておく方がうまくブレンドされるかもしれません。

7:Diffusion設定

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リバーブの質感を増減します。上の例では、Diffusion Networkセクションが該当します。

高い値では、多くの障害物による複雑な空間を表現します(満員のコンサートホールを想像してみてください)。さらに、滑らかさ、暖かさ、色合いなども付与されます。

リバーブは楽曲に命を吹き込みます。

低いDiffusionレベルは障害物の無く、反射しやすい空間を表現します(空っぽの倉庫を想像すると良いでしょう)。

低いレベルだと色付けのない、シンプルで明るい印象を作ります。DiffusionはリバーブのDecayタイムにも影響するため、減衰時間の処理にも有効です。

Hot Tip:Diffusion設定で高周波数帯域を操作し、パーカッション系楽器の金属的な甲高い音を減らす効果も期待できます。

8:Mixレベル設定

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Mixレベル(Wet/Dry)は最も重要なパラメーターです。

これによりリバーブ成分が元の素材にどの程度影響するのか(またはしないのか)を決定します。

Wet/Dry Mixレベルを調整し、完璧なバランスを見つけましょう。

Hot Tip:リバーブの減衰はマスタリング後に気付く事があります。ミックスリファレンスを活用して減衰についてもチェックするようにしましょう。

リバーブを独立したリターンチャンネルに立ち上げる事で、複数のパートに異なる量のリバーブを適用する事ができます。

それではミックス全体を聴いてみましょう!

 

最後に

リバーブは楽曲に魂を吹き込みます。音が真空の世界から、現実の世界へ導かれるのです。

リバーブは思わずかけすぎてしまう傾向があります。あなたのスタジオで生まれた楽曲の世界観を確実にリスナーへ届けるために、ここで学んだ知識をしっかりと活かしましょう。

自分の耳を信じる事を忘れずに。

Toshinori

Ableton Live や Native Instruments Maschine 等のデジタルガジェットで音楽を楽しんでいます。愛犬家。SoundCloud

@Toshinori

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